私はおもむろに立ち上がり、パソコンの前に座っていた。



あのことについて思い出されるのは、いやな思い出ばかり。
父さんには絶対にバレないようにしなさいと、母さんからはいつも厳しく言われた。
だから、それを守ってはいたけれど、子供の頃には、友達に漫画の続きを教えてあげたことも何度かあった。
そのことが周りに広まって来ると、私はわざと間違えた。
感じたこととは違うことを言って、雑誌の発売日にそれを見てがっかりして見せた。
間違えると、それまで私の周りにいた子達の態度が急変して……



「もしかしたら、この漫画家さんと知り合いなの?」

「こんなにわかるなんて、野々村さん、将来は原作家になれるかもよ!」

「すごいね!また当たったよ!もしかして、超能力?」



様々な憶測をされた。
皆が、憧れにも似た眼差しで私を見た。
普段目立たない私が、唯一、注目を浴びた瞬間だった。
でも、このことが両親にバレたら…
そう考えると、私は怖くなってすぐに嘘を吐く。
はずれたことでがっかりされるだけならまだ良いけれど、まるで私が自分から漫画家の知りあいだと吹聴していたように言われたこともあった。
嘘吐きというレッテル…
本当のことが言えないもどかしさ…
やがて、私の周りには誰もいなくなっていた。

こんなに長い時が経っても、思い出すと胸が苦しくなるようないやな記憶。



私も本当は自分の考えた物語を書いてみたかった。
だけど、私には才能がなかったようで、どんなに投稿しても箸にも棒にもひっかかることはなかった。
小説は無理だとしても、ちょっとしたライターの仕事でさえもらえない。
自分の才能にうちひしがれた時、皮肉にも認められたのはゴーストライターの仕事だった。



(私は…この忌々しい能力に助けられてたんだ…)



私は美幸さんのホームページにアクセスした。
教えてもらったパスワードを入れて、あの小説のページに飛ぶ。
何度も読んだその小説を私はまた最初から読み始めた。
そうしているうちに……表現するのは難しいのだけど、私の意識の一部がまるでその小説の中に入りこむような…そんな感覚があって…



(……あ!)



リンクした!
あの感覚…私の意識と小説が繋がるあの感覚を感じると同時に、私の手はキーボードを叩き始めていた。