「お、おはようございます!」

「おはようございます。」



朝までさんざん飲み続けた俺が目を覚ましたのは、お昼のワイドショーが始まった頃だった。
野々村さんも昨夜は少し酒を飲んではいたが、そうたいした量ではなかったせいか、すでに起きて居間でテレビを見ていた。

なぜあんなことを言い出したのかもよくわからなければ、なぜあんなに洗いざらい自分のことを話してしまったのかもわからない。
昨夜は、久し振りに昔のことを思い出した。
美幸が生まれ、毎日が楽しかったあの頃のこと…
母親の真似をして俺を「カズ君」と呼び、どこに行くにもついてまわる美幸が可愛くて仕方なかった。
ところが、美幸が成長していくにつれ、俺は疎外感のようなものを感じるようになった。
今にして思えば、それは思春期ゆえの単なる俺の思い込みだったことがわかる。
だけど、当時の俺にはそれがわからなかった。
美幸は両親の間に出来た子供だからどちらにとっても可愛いのは当たり前だ。
でも、俺は父とは血の繋がりがない。
母とは血が繋がってはいるけれど、俺は母が憎んでいる男の子供だ。
きっと、皆、俺のことなんて邪魔だと思ってるに違いない。
そんな風に思いこんでいた俺は、家の中に自分の居場所を失って行った。
すぐにでも家を飛び出したい思いはあったが、そんなことをして、母と父が揉めたら困ると思い、高校を卒業するまではなんとか耐えた。
その鬱憤を犯罪にならない程度に外で晴らし、家では聞き分けの良い息子を演じる…そんな生活を続けるうちに、激しい自己嫌悪に陥った。
当時の俺は、心の内を誰にも言えず、自ら作り出した妄想の中でもがき苦しんでいたように思う。
高校を卒業した俺は、実家を離れた。
それで、楽になれる筈だった。
けれど、実家を離れた俺は、意外にもますます深い孤独感に陥るばかりだった。
寂しくて寂しくて…思い出すのは家のことばかり……家に戻りたくてたまらなかった。
そんな気持ちを打ち消すために、俺はカメラマンを目指したいといって今度は日本を離れた。
ちょっとやそっとのことじゃ戻って来られない程遠くへ行かないと、俺はきっと耐えられないと思ったから…

今まで誰にも話したことのなかったそんな話を俺は朝まで話し続けた。
野々村さんは、俺の話を黙ってじっと聞いてくれた。
とても心配そうな顔をして…じっと…