(……なんて綺麗な瞳…
青木さんとこんな風に接することも、これでおしまいなのね…この綺麗な瞳ももう見られない…)



そう考えると、やはり残念でたまらなかった。
愛されることなんて望んでない…そんな大それた夢を見るような年じゃないから。
ただ、時々青木さんと連絡したり会ったりするだけで、私はとても幸せだった。
それがもう出来なくなると思った途端、どうしようもなく寂しい思いが込み上げて、私は唇を噛み締めた。



(今更、何を考えてるの…
もう決めたことじゃない。
決めたも何もすべてバレてしまったんだから…
言わなきゃ…今日で最後でも…どんなに辛くても言わなきゃ…)



私は心を落ちつけるため息を深く吸いこみ、その勢いで話し…



「本当にすみません!」

「……え?」

私が話し出そうとしたまさにその瞬間に、青木さんがそう言って私の前に深々と頭を下げた。
私は意味がわからず戸惑っていると、青木さんが不意に顔を上げた。



「亜理紗が酷いことを言ったんでしょう?
それで、野々村さんはショックを受けて……」

「え…!?」



一瞬の間を置いて、私は青木さんのさっきの言葉の意味を理解した。
「亜理紗のことがショックで」というのは、亜理紗さんが私に酷いことを言ったからそれがショックで…ということだったんだ。
亜理紗さんと青木さんがつきあってると思ってショックを受けたということがバレたわけじゃない!



「……本当にすみません。
あいつは、自分が誰よりも綺麗だと思っていて…
それに周りが注意しないから、言って良いことと良くないことの区別がつかないんです。」

「……は?……あ……あ、青木さんが謝ることなんてありませんよ。
そ、そんなことくらいでショックを受ける私の心が弱いだけです。」

私は咄嗟にそんな嘘を吐いていた。
さっき、決心した筈だったのに…その決心を一瞬で覆していた。



「いいえ。
誰だって傷付きますよ。
あいつは、本当にきついことを言いますから。
そういうトラブルは今までにも何度もあったようです。」

「そ…そうなんですか。」

「野々村さん…すぐには無理かもしれませんが、心の傷はいつかはきっと癒えるものです。
急がなくて良い……
だから、もし、しばらく経って今回のいやな出来事を忘れることが出来たら…その時にはもう一度トライしてみてもらえませんか?」

意外だった。
まさかそんなことを言われるなんて少しも考えてなかったから…



「……青木さん…本当に?
本当に、いつになるかわからないその時を待って下さるんですか?」

「もちろんです。」

「……な、何年経っても、何十年経っても戻らないかもしれませんよ?」

「それでも待ちます。」



青木さんの顔がぼやけて膨らんで…
顔を背け俯いた途端に、熱い涙がこぼれて落ちた。