「野々村さん、何を言ってるんですか。
あなたが謝る必要なんてなにもない。
……だけど……能力が消えたことには、もしかしたら、原因というかきっかけみたいなものがあったのではありませんか?
野々村さん、何か思い当たることはありませんか?」

「そ…それは……」

口篭もる野々村さんの顔色が急に変わった。
思った通りだ。
野々村さんはその原因に気付いている。
この手の能力が急に開花されたり消えるという話は今までにも聞いたことはあったが、それにはなんらかのきっかけがある場合がほとんどだ。
野々村さんの場合もきっとそうなんだと思う。
だったら、それが解決すれば、また能力が戻ることもあるかもしれない。
今、美幸のことで頼れるのは彼女だけなのだから、出来る事なら戻ってほしい。



「やはり、何かあったんですね。
何があったんですか?」

「……い…いえ…
何もありません……
ただ、急に消えたんです。」



彼女が何かを隠していることはすぐにわかった。
俺とは一切目を合わさず、盛んに眼鏡や髪を触り、落ち着きがない素振りがそのことを確信させた。

(よほど、言いにくいことなのか?
そういえば、野々村さんの書いてくれてるブログがおかしくなったのはいつだっただろう…?
……そうそう、亜理紗と会った日にマイケルがここ数日のブログが少し変だって言ったんだ。
その前に小説を持って来てくれた時はまったく変わったことはなかった…
と、いうことは、あれからすぐ…
……まさか!)



「野々村さん!もしかしたら、亜理紗のことではありませんか?
亜理紗のことがショックで、それで…」



俺がそう言った途端、みるみるうちに野々村さんの顔がまっ赤になり、野々村さんは顔を覆って嗚咽し始めた。



(やっぱり、そうだったか!)



亜理紗が俺を尾行けて来たあの時、野々村さんに会って深く傷付けるようなことを言ったんだ!
大方、彼女の年齢や容姿のことを罵ったんだろう……亜理紗のしそうなことだ。



俺は、忘れかけていた亜理紗への怒りが再び熱く燃えあがるのを感じた。