「本当においしいですね。
素材も良いもののようだ。」

「そうなんです!
ここは、無添加無農薬の小麦等を使われてるらしいですよ。」

やっぱり青木さんの舌は確かだ。
そんなことにもすぐに気付いて下さることが私はとても嬉しくて、思わず、声が大きくなってしまった。



「うん、とっても美味しい。
だけど……いくらなんでもこれは買い過ぎなんじゃないですか?」

そう言って、アッシュさんは呆れ顔でテーブルの上のパンをみつめた。
その瞬間、私の頬は熱くなる。
確かにアッシュさんの言う通りだ。
朝食用のパンの他にも、ここのおかずパンは小腹がすいた時なんかにちょうど良いボリュームで、それに、スィーツ系の甘いパンもおいしいのがいっぱいあって、その上、以前行った時にはまだなかった新作のパンもあって…
どれもこれもものすごくおいしそうだったから、選ぶのに困って、手当たり次第に買ってしまったのだから。



(恥ずかしい…
もっとちゃんと考えて買ってくれば良かったわ。)



「な~に、三人いたらこのくらいすぐに食べきってしまうさ。
それに、今の季節なら今日中に食べなくても大丈夫だからな。
……こっちのもうまそうだな。」

青木さんはそう言いながら、惣菜パンに手を伸ばした。



(青木さん…もしかして、私のことを気遣って…)



「それもそうだね。
夜中なんか、けっこうお腹すくし…
マイケルがいたら、きっとこのくらい一人で全部食べちゃうね。」

「マイケルはパン好きだもんな。
……それにしても、野々村さん、朝からわざわざこんなおいしいパンを買って来て下さってどうもありがとうございます。
でも、俺達のことなら気を遣わないで下さいね。
朝飯なんて、アッシュに作らせれば良いんですよ。」

青木さんはアッシュさんを顎先で示して、悪戯っぽい笑みを浮かべた。



「わかってるよ。
だから、今日もそうしようと思ってたら野々村さんはもういなかったし…
……ん?このパン屋さんって、そんなに遠くなの?」

「あ…ち、違うんです!
私、確かめていかなかったから、着いたらまだお店が開いてなくて…」

「どのくらい待ったんですか?」

「え…えっと、三十分…くらいかな…」

私が恐る恐る正直にそう答えると、アッシュさんと青木さんは顔を見合せて驚いたような表情を浮かべた。