【side祐】


なんでだろ?


さっきボールを取ってくれた女のことが忘れられない。




さっきからその女のことばかり考えている。



「祐~♡お疲れ♡早く帰ろうよぉ♡」

「………」

「祐?どうしたのぉ?」

「俺、用事思い出したんで先に行きますね」

「えぇ~!ちょっと待ってよぉ~」


俺はその女を探すため、走り出した。





ハァハァハァハァ。



校舎の周りを走りまわって探したが、どこにもいなかった。


「お疲れっす祐先輩!そんなに急いでどうしたんっすか?」


「おっ!山川!山川って1年だよな?」


「そうですけど…それがどうかしたんっすか?」


「今日、飛んで行ったボールを取ってくれた子いただろ?あの子の名前わかるか?」


「あ〜!夏実ちゃんっすね‼︎矢野夏実って名前なんですけど、1年男子の間ではかわいいって有名なんすよ!」


「………」



「まさか先輩、夏実ちゃん探してるんすか?」



「…ああ。お礼を…言おうと思って」



「夏実ちゃんならそこの教室にいますよ!」



「さんきゅ。山川」




山川に言われた教室に着いた。




俺は教室の中へ入った。

教室にいた2人の女は俺に気づき、びっくりした様子で俺を見た。



もちろんそのうちの1人は矢野夏実だった。




矢野夏美の横にいた女は、
「私はお邪魔みたいね~」

と言ってどこかへ行ってしまった。






「…今日はボール取ってくれて…ありがとな」



「そんな…とんでもないです!人としてあたりまえのことをやっただけです!」



「あはは!なんだそれ!」



俺は思わずふきだした。



矢野夏美は、きょとんとした顔で俺を見つめている。



そんな顔に不覚にもドキッとしてしまった。




こいつ…なんでこんなにかわいいんだよ。



こいつに会うまで女を一度もかわいいなんて思ったことなかった。





どうやら俺は矢野夏美に“初恋”ってやつをしてしまったらしい。




「じゃあ、それを言いに来ただけだから」



「わざわざありがとうございます!さようなら」





俺は矢野夏美に別れを告げた。







次の日、朝練がなかったからある人を屋上に呼びだした。





ある人とは三月先輩だ。




俺が三月先輩を呼びだした理由は…





「別れよう」と言うためだ。




「祐♡お待たせ♡祐から私を呼びだすなんて珍しいねぇ‼︎私、うれしすぎて走ってきちゃったぁ♡」


「先輩…俺、お願いがあって先輩を呼んだんです」



「お願いってなにぃ?祐のお願いならなんでも聞くよぉ♡」





「言いにくいんですけど…俺と別れてくれませんか?」




「えっ…なんでよぉ‼︎そんなの嫌‼︎理由は?別れるのに私を納得させるようなちゃんとした理由もないのに別れようなんて言わないで‼︎」






「理由なら…あります」




「何よ?…言ってみなさいよ‼︎」




「他に好きな人ができたんです」





「えっ…私がいるのにその人を選ぶの?
そんな…そんな彼氏なんかいらないわ‼︎今すぐ別れましょ‼︎それじゃ!」




先輩は泣きながら別れてくれた。





俺は今まで数人の人と付き合って、飽きたら別れるを繰り返していた。




でも、そんなことを続けるのも今日までだ。




おれにもちゃんと“好きな人”ができたから。





【side夏美】

「おはよ~夏美!」



「おはよ!友紀ちゃんっ!」



「昨日は私がいない間、2人でどんなこと話してたの~?」


友紀ちゃんがニヤニヤしながら私に問いかけてきた。


「ボール拾ってくれてありがとうって伝えに来てくれただけだよ?」



「ふう~ん。なるほどね…」



「友紀ちゃん?」



「はい。朝のHR始めるぞ~。みんな席に着け~」



「じゃあね。夏美」



「うん…?」



友紀ちゃんはニヤニヤしながら逃げるようにして自分の席に座った。




私は友紀ちゃんのニヤニヤの理由がわからなくて頭の中が“?”でいっぱいだった。




朝のHRが終わり、1時間目の授業が始まった。



一時間目の授業は国語。



目が大きい国語担当の新藤先生(通称デメキン)があいかわらず目を見開きながら授業を進めている。



私は国語が好きだからいつもは授業を聞いているのけど、今日は昨日眠れなかったせいでそのまま眠ってしまった。



夢の中で藤堂先輩が出てきた。


夢の中の藤堂先輩は私の頭をそっとなでて抱きしめてくれた。




私は幸せでいっぱいだった。




「藤堂…せん…ぱい…」



「み…夏美!」



「はっ!」



友紀ちゃんの声で目が覚めてしまった。



「いい夢見てたみたいだけどもうお昼よ?」



「えっ?」



「今日もお昼一緒に食べるでしょ?」



「うん!もちろん!」



説明しよう!この学校は中学校だが学校の方針で給食ではなくお弁当なのだ!



「今日はどこで食べる?」




「屋上!屋上がいい!」




「じゃあ、今日は屋上に行こっ!」



私達は屋上に着くとすぐにお弁当を開けて食べ始めた。




「夏美の卵焼きうまそうっ♡1個もらいっ!」



「もう!友紀ちゃんってば~!」




「えへへっ!でもおいし~♡」





「藤堂先輩…私、ずっと藤堂先輩が好きなんです!良かったら私と付き合ってくれませんか?」




友紀ちゃんと話していたらそんな声が聞こえてきた。




私達は気になって声のした方を見ると1年生の女の子が藤堂先輩に告白していた。



「………」




「良かったら私とお付き合いしてください!お願いします!」




「ごめん…俺、他に好きな人いるから。気持ちはうれしいんだけど…その子以外は考えられないんだ…」



そうだよね…先輩、彼女いるし…

昨日の悲しかったことをまた思い出してしまった。



「そ…そうなんですか…わかりました。でも最後に1つだけ教えてください。その…先輩の好きな人って誰なんですか?」




「それ言ったら俺のこと…諦めてくれるか?」




「はい…」





「俺の好きな人は…1-4の矢野夏美だよ」



驚いた。
私は先輩の口から出た名前に耳を疑った。



「えっ…?そうなんですか…夏美ちゃんですか…わかりました。では、私はこれで。」



「俺を好きになってくれてありがとな」



先輩は笑顔でその子を見送っていた。



えっ…わ…私?




なんで…先輩には三月先輩っていう彼女がいるのに…






「夏美!おめでと~!両思いじゃん!」






「………」







「どうした?夏美?うれしくないの?」








「なんで…先輩には彼女がいるじゃん?それなのに…なんで私なの?」






「それは藤堂先輩に直接聞いてみたら~?」




友紀ちゃんはニヤニヤしながら私に提案した。




「でもそれで間違ってたら自意識過剰って思われちゃうじゃん!」






「あ~そっか。じゃあ、私が聞いてあげるよ!夏美はここで待ってて」






「えっ!友紀ちゃん待って!」





足の速い友紀ちゃんの耳には私が待ってって言った声も届かなかったみたいだ。





「藤堂先輩!」




「君は…夏美の友達?」






「はい!夏美の友達の友紀です」






「どうかした?俺に用?」





「私と夏美は屋上でお弁当食べてるんですけど…さっきの聞こえてしまって…その…さっきの話って本当ですか?」





「…聞こえてたって夏美にも?」






「…はい」




「マジか…でもさっきの話は全部本当だよ」





「でも夏美が藤堂先輩には彼女がいるって言ってましたよ?昨日、保健室に一緒にいたって…」






「えっ…?夏美はあのとき、いたのか…でもその先輩とは別れたんだ。その先輩とは断りきれずに付き合っただけだから。」







「それに俺は…夏美を好きになったから」





「そうなんですか!じゃあ、今日の放課後、夏美が話したいことがあるみたいなんでここで待っててください」





「うん…わかった」





友紀ちゃんは私のもとに戻って来た。




「友紀ちゃん!先輩何て言ってた?」





「藤堂先輩は、夏美が好きになったから三月先輩と別れたって!三月先輩とは告白されて断りきれずに付き合ってただけだって!」