学校帰りの夕方。深空は、雄二が塾長を勤めているという塾の入ったビルの前に立っていた。

(えーと、二階か… 階段は…)

 そのビルは、どこにでもあるような古びた雑居ビルであった。見上げると、二階の窓には、名刺に書かれている塾名と同じ名前のステッカーが貼られてい
る。

 深空はブーツのかかとを鳴らしながら、ひんやりとしたコンクリートの階段を昇りはじめた。二階の入口には、白いプレートの表札が貼られていた。目的地に着いた途端、深空に緊張が走る。

(…よし)

 意気込んだ彼女は、目の前にある肌色をした鉄製のドアをノックした。

「はーい」

 聞き覚えのある声が彼女の耳を掠めるのと同時に、その重い扉は開かれた。

 室内の清潔感のある明るい光を受けて出てきたのは、この間と同じ笑顔を浮かべた雄二に間違いなかった。

「お、来たか。どうぞ」

 この間偶然に会った時とは違い、今日の雄二は妙にラフな恰好をしていた。カラーシャツにノーネクタイ、そして線の消えたスラックスを穿いた彼は、深空を中に招き入れ、静かにドアを閉めた。