「先、生…?」

 唇が離れたとき、深空は小さくつぶやいた。

「慰めてやるって言っただろ?」

 雄二は優しく微笑み深空の瞳を覗き込む。

 その時だった。妙な疑問が深空の頭の中でポンと浮かぶのだ。

(…なんでこの人はあたしに優しいんだろ)

 彼の手は、あの時に触れられた伸夫よりも優しく包み込んでくれる…

(週末、帰省するんだっけ…)

 さっきの電話の会話を思い出す。

(久しぶりに彼女と会うんだよね…)

 声に出して、聞けない質問。いつもなら、挑発して楽しむところなのに…

(変だ… あたし…)

「深空?」

 挙動不審の彼女に、不思議そうな顔をして雄二が呼び掛ける。

「えっ?」

 遠くに行ってしまった意識を急に呼び戻され、つい目を大きくしてそれに応じた。

「どうかしたか?」

 雄二の問い掛けに深空は首を横に振った。しかし深空は雄二の顔を見るだけで、言葉が出ない。