大村 雄二

 この男の名前だ。彼は深空が小学生の時、この駅の線路沿いに建つビルに入っていた学習塾で、国語と英語を教えていた。

 当時から中々の人気講師で、生徒からの信頼は厚かった。見た目の印象もさわやかで、生徒に対してまめにコミュニケーションをとる人だった。授業も楽しく、生徒たちの心を掴んでいた。恐らく、雄二に恋していた女子は沢山いただろう。

 そして、深空もその一人だった。

 中学を卒業し、高校に入学してからも、時々は雄二に会いに行っていた。やはり、あの時に抱いた気持ちが忘れられず、学校の勉強でわからないことがあったら、それを口実に塾に訪れていたのだ。深空の大好きな時間だった。

 しかし、そんな時間は長く続かなかった。

 それは、彼女が高校2年の時-…

 中学の時からその塾で友達だった子から受けた、衝撃の相談…

 その子の抑えられない想いを雄二に告白する手伝いをさせられたのだ。

 結果、惨敗。「『彼女』がいるから…」と、彼女がフラれたのを目の前で目の当たりにした深空は、自分のことのようにショックを受けた。

 雄二とは、それ以来だった。