「あ、すいません。ありがとうございま…」

 顔を上げ、お礼を言いながら手を差し出したその時、深空は状況を理解した。

「やっと会えた…」

 影は、陽の光を全身に受けながら、彼女の前に姿を現したのだ。それは、一人の男…

「伸夫…」

 深空がそうつぶやいたのと同時に、男は深空を抱きしめる。

「やっと… 会えた…」

 深空の体温を噛み締めるように、だらしなく着たグレーのスウェット姿の伸夫は人目も憚らず、行き交う人の流れの中で彼女を抱きしめた。それはまるで聖母マリアを見るかのような恋焦がれる目をしていたのだ。その目を見た瞬間、深空の体に嫌な予感が駆け抜ける。眉間にしわを寄せて、彼女はその感じた予感を振り払うかのように瞳を揺らしていた。