「…新しい写真立て、買ってこうかな」

 ポツリと呟く彼の言葉に、深空はゆっくりと振り向いた。彼女の目に映ったのは、今の今までふざけていた彼の背中ではないような気がしていた。

「どした?」

 デジカメを元に戻した彼が振り向き、ぼーっと見つめている深空に呼びかける。深空は首を横に振り、また前を向いてソファのクッションを座り直した。彼もまた彼女の横に座り、深空の額に軽くキスした。そして何事もなかったように、少しぬるくなったコーヒーを飲んでいた。

(……)

 何かが深空の中を走っていく―

(…なんだろ)

 深空は胸に手を当てたが、すぐに考えるのをやめた。そのまま雑誌を閉じて、身体を雄二に預ける。

「暖かい…」

 思わずそうこぼしていた。目を閉じ、彼の上腕あたりの体温が深空の頬を温める。

 深空は、しばらくその温度を感じていた。雄二は、そんな彼女の気が済むまで、そのままそこに座っていた。