その時であった。

 深空は雄二と繋いだ手を強く握りしめようとした時、ドスっと鈍い音が響き、バランスを崩した雄二から、繋いだ手から伝わっていたさっきまでの力が失われた。深空は足元に倒れる雄二を見て、後ろを振り向こうとする。

「振り向かないで」

 強い口調で、言い放つ声。もちろん、聞き覚えのある声だ。

「…もう来ちゃったのね」

 深空の真後ろから感じる気配と小さなつぶやき…

「ねぇ、深空さん」

 翠は唇を緩め、後ろから深空を抱きしめるように覆いかぶさる。手には、小さなナイフが握られており、そのナイフの刃は深空の顎の辺りに剥き出しになって光っていた。

「あの乾いた物置に火を付けたら、よく燃えると思わない?」

 翠は意地悪な笑顔を向けながら、お堂の裏手に建つ木造の大きな物置を指差した。深空はハッと目を見張った。