境内には一切の明かりがなく、古い木造の建物がただの黒い影にしか見えなかった。雄二は深空の手を引きながら、あたりに気を配っていた。

「お堂の裏に行ってみよう」

 雄二はそのまま深空の手を引いて静かに歩く。深空も足音に気をつけて彼に続いていた。しかし、春先だとはいえ、日が完全に落ちると気温がぐんと下がり、肌寒い。深空は、背中を丸めてながら考える。この暗闇の中深雪は翠に何をされているのだろうか…?

 そう思うだけで、震えが止まらなかった。

 眉をひそめながら進んでいくと、雲に隠れていた月が空に浮き出て、生い茂る木々を白く薄く照らしはじめた。そのぼんやりとした光を受けて、隙間から木製の柵が見えた。

(この柵の下は、崖?)

 深空は柵に空いた手をかけ、目をこらして下を覗いてみた。パラパラと渇いた音を立てて、細かい土砂が転がり落ちていく。しかし、月明かりが明るいとはいえ、下まではよく見えない。