サイドブレーキを引き、ドアロックを外す音が耳に入ると、彼等は車を降りた。

 目の前には、石の階段が何段も続き、上に小さく見えるのは、おそらく朱い鳥居のようであった。

「ここは…?」

 深空は早速その石段を上っていく雄二に尋ねる。

「ここは、牡丹で有名な寺なんだ。翠は小さな時からこの寺の風景が好きだとよく言っていた。俺とも何度も来たことがある」

「…そう」

 深空はゴクっと唾を飲み込んだ。そして震える胸を抑えながら、雄二に付いて石段を上る。その時、小さなリボンの髪飾りが砂にまみれて落ちているのに気付いたのだ。

(これ…!!)

 深空はそれを拾い上げる。

(前に手作りした巾着袋のあまり布で作ってあげた、リボンの髪飾り…)

 指でつまみ、自分が娘のために作ってあげた髪飾りをしげしげと見つめる、深空。

「…やっぱりか」

 雄二の足は更に速くなる。深空は髪飾りを上着のポケットにしまい、早足になった彼の後を必死に追い掛けていた。