彼は、やがて自分に嘘をついて翠と生活していることに気付く。心を開くまで待ってくれると言う翠との生活に息苦しさを覚えたのだ。

「俺は、結局翠をお前の代わりにしていた。…でも全く違うんだよな。どうしても、あいつはあいつでお前じゃない… もう、無理だと思った。俺は、家を出てお前を探しに行ったんだ」

「…だから翠さんは心を開けなかったあなたを」

 深空が途中まで口にすると、雄二はうなずいた。

「ちょうど一週間前に離婚してくれって頭を下げた。お前と再会したすぐ後のことだよ。そんな俺に、あいつは怒りもせず冷静にうなずいてくれたんだ。でも、あいつは…」

 腹の底では愛と憎しみが混ざり合い、彼女を走らせた―

 深空は、目を閉じて深雪の無事を祈っていた。

 翠は、深雪に何をするつもりなのか…

 想像するだけで、彼女の胸は締め付けられる…

「俺の判断が全てを招いたことだ」

 右折するために、彼はハンドルを切った。

 その時、深空には何か彼から決意のようなものを感じていた。彼の横顔を見つめる。

 あの真っ直ぐな眼差し…

 深空の胸に、何かが走る。彼は何の覚悟を決めたのか…?

 胸の轟きが収まらないまま、トラックはある場所に到着した。