深空は背中を丸くしながら、帰りのラッシュの最中、ホームで電車を待っていた。彼女の心の中で、翠の言葉が行ったり来たりしている。

『経済的にも大変でしょう。仕事だって、正社員ではないみたいだし、うかうか病気にだってなれないし…』

 深空は悔しさのあまり、唇を強く噛んだ。

(それは、最初から覚悟していたことだもの…)

 激しく首を振った。

(でも… それって、やっぱりあたしの身勝手なのかな…)

『こどもには両親が必要なのよ。母親の身勝手で生まれてきたこどもには、本来、皆平等にあるべき未来に制限がでてくる。そんな人生にする権利、あなたには無いのよ…?』

 確かに、そうなのかも知れない。深雪には、まだまだたくさんの可能性を秘めた三歳のこどもだ。その可能性を、“家庭環境゛が潰しているかもしれない。彼女に選択肢が極度に少ないということは事実だ。

 深空はふと、あの無邪気な彼女の笑顔を思い出していた。彼女は、父親がいない環境を当たり前だと思っている。そのうち、聞かれるのだろうか。゛自分に、父親が存在するのだろうか゛と…