胸に刺さる棘…

 もう会うこともないと思っていた男に会えた喜びを一瞬にして無にする、現実。喜んだ自分に後悔し、痛みだけが彼女を襲っていた。

「あぁ…。兄貴の勧めでね」

 雄二は決まり悪そうにそう言うだけで、多くは語らなかった。

「お前こそ、あの子…」

 隣の部屋で眠る深雪に視線をやりながら、雄二は言った。

「びっくりした?」

 笑みを含ませながら、深空は目を合わさずに言うと、彼は素直にうなずいた。

「別れたあと、判ったのか」

 静かに彼がそう尋ねると、今度は深空が黙ってうなずいた。

「…そうか」
 空気のように、そのつぶやきは散っていった。その後で、二人の間には沈黙が広がった。