ちょうどその時、電車のドアが開く音で深空は我に返った。数人、中に乗り込むとまた電車は走り出した。

 走り出してすぐ、カーブでガタっと揺れて、膝に乗せていた深雪のリュックが滑り、前に立っていた男性の靴の上に落ちてしまった。

「あ… すいませ…」

 そう口にしながら、リュックに手を伸ばしながらその男性に謝ろうと、上を向く。

「ん……」

 語尾を言い終わったとき、その男性が目に映る。深空の脳みそは、完全に固まっていた。

「…いえ」

 固まっている深空よりも先に、その男性は屈んでリュックを拾い上げ、深空に渡した。そんな彼女に下手くそに笑う、目の前の男性…

「…久し振り」

 少し髭を伸ばし、短く刈られた髪型。しかし、彼女を見つめるその目は三年前と全く変わらず、それだけで昔を思い出すには、充分だった。

「…先生」

 深空がやっと口にできた言葉だった。それ以上は、頭の中が真っ白で何も言うことができなかったのだ。

 電車はどんどんスピードをあげて走って行く。しかし、深空はそのスピードに追いつくことができないくらい、動揺していた。