そーいえば…」

 その時に、夏美が不意に何かを思い出し、口を開く。

「この間、店に伸夫くんが来たんだよ」

「ふーん… この間って、いつ?」

 驚き聞き返すと、夏美は記憶を手繰り寄せるように、指を数えている。

「4日くらい前… かな」

「ふーん…」

 信号が青に変わり、ふたり揃って右足が前に出る。

「"ふーん"ばっかりだね」

「だって、もう関係ないもん」

 前を見据え、深空の足は軽快に進む。夏美は、そんな彼女を追い越して顔を覗き込んだ。

「深空ちゃんに会いたがってたんだけどなー?」

「…ふーん」

 深空は最後、素っ気ない返事をしただけで、それ以上は何も言わなかった。そんなことよりも、深空の頭の中は、あの時の夜を思い出していた。