もう一つカップを持って、テーブルに戻ってきた夏美は、深空の向かいに座
った。眉をひそめ、今までにない壊れた深空を見つめている。

「…暖かい」

 深空はぽつりとつぶやいた。

「ケンカでもしたの? びっくりしちゃったよ、コートも着てないんだもん…」

 夏美はため息を付き、深空に尋ねた。

 カップを揺らしながら、「…ごめん」と深空は小さな声で謝った。

「さっき実家にって言ってたけど… もう、戻らないの?」

「…解らない。でもこのままじゃ、あたしは一緒に彼と彼の実家には帰れないから…」

 深空は小さく笑い、ココアを一口飲んだ。

「…このままでいいの?」

「後悔、するかもね…」

「だったら…」

 夏美が言いかけると、深空は首を振った。寂しそうな深空の顔を、心配そうに見つめている夏美は、また立ち上がる。

「お風呂、沸いたから入って温まって」

 夏美は、深空を浴室に促した。

「タオルと着替え、トイレの蓋の上に置いておくから使ってね」

「ありがとう。夏美」

 深空は深々と頭を下げた。

「いいって、気にしないで」

 夏美は笑いながらそう言うと、彼女はユニットバスの扉を閉めた。