「俺、今から帰るところだから。ごゆっくり」

 コートを着込み、優しく笑いながら立ち上がる吉井を見た深空は、頭を下げた。

「よくあったまりなよ」

 そう言い残し、彼は玄関へと向かった。

「もうすぐお風呂沸くから、それまでこれ飲んでて」

 夏美は、毛布を被っている深空の目の前に、ココアを差し出した。

 甘い匂いがふんわりと広がり、深空の鼻孔にもそれが届く。彼女は、かじかんだ指でココアの入ったカップを手に取り、その温かさを感じていた。

 すると、彼女の頬をまた涙が濡らす。

 もうたくさん泣いたのに、涙は枯れない…

 ジンジンと温まっていく指先を感じながら、深空はココアを啜っていた。