秋の夜の風は、酔った彼らの身体に心地よくしみていった。

 相変わらず雄二の右腕を独占している深空。駅までの細い路地。表通りとは違い、人通りもあまりなく、かなり静かだった。

「…深空」

「ん?」

 名を呼ばれると、彼女は無邪気に彼に顔を近づけ、悪戯に笑う。

「なんかお前に対する印象が、変わった…」

 雄二の少し照れたような表情…

(あ、そんな顔、見たことない……)

 深空がそう思った瞬間、彼の腕が彼女の身体を抱きしめていた。

「…彼女いるクセに」

「ここには、いない」

「ズルイ… それとも、可哀相な子だとでも思った?」

 深空は笑って彼の耳元で囁く。

「そんなんじゃねぇよ…」

 否定するかのように、雄二の唇が深空の唇を塞ぐ…
 熱くて、ヤニ臭くて、酒臭い…
 抱きしめる彼の力は本当に強くて……
 不覚にも、彼女は溶けそうになっていた。

 後で、酔った勢いだったなんて説明するの?

 それとも、明日から何にもなかったかのように振る舞うの?

 それでもあたしを欲しくなるようにしてあげる……

 深空は、彼と唇を重ね合わせながら“ゲーム”の勝利を確信していた。