それから2時間程が過ぎ、日付は変わった。

「お前さー、時間平気? もうすぐ下りの終電なくなるけど」

 程よく酔ってはいたが、時計を見ながら心配そうに雄二は言った。それでも深空は表情を変えることなく、グラスに口を付けていた。

「家は別に平気だよ。うち、自由だから。てゆうか、心配してくれるような人はいないしねー… 」

「あ、そう… なんか複雑そうだな」

 深空は、にこっとしながらうなずいた。

「昔から?」

「うん。うちの親は仮面夫婦だから、二人ともやりたい放題」

 だからあたしも、と言うかのように彼女は杏酒の入ったロックグラスを一気に飲み干した。

「…なぁ、まだ平気なら、ちょっと場所変えない?」

(お。…きた?)

 深空は雄二の提案に素直に従い、席を立つ。意識ははっきりしているのだが、少し足元がふらついていた。

「大丈夫かよ…」

 苦笑いを浮かべながら、雄二はよろける彼女を腕で支える。

「ごめん、ちょっと飲み過ぎたかもー…」

 ニコッと笑い、彼女はここぞとばかりに彼にしがみついた。

(あたしの匂い、感じるかな…?)

 彼女がしがみついた彼のその腕が、見た目よりもずっとがっちりしていることを初めて知った深空は、胸がぞくぞくしていた。そして、体温がぐんと上がる。

「ね、行こ~」

 会計を済ませた雄二の腕を引っ張り、深空は楽しそうに店の外へと出た。