「…写真、持ち歩くなんてカワイイね」

 少し膨らんだ胸ポケットを指さし、顔少し上目で微笑みながら彼女は言った。

「……」

 雄二の瞳孔が一瞬だけ開く。

 "妖艶"

 その笑みは、その言葉がピッタリだった。

 彼はじっと深空の顔を見つめながらジョッキのビールに口を付ける。

「? なぁに?」

 深空はそんな彼を不思議がり、問い尋ねる。しかし、すぐに元の表情に戻った雄二は、笑って首を横に振った。

「ねぇ、あの写真、彼女でしょ?」

 再び、深空はその話題を面白がって口にする。

「そーだよ」

 運ばれてきた枝豆を殻ごとくわえている雄二はあっさりと答えた。

「結婚しないの?」

「…そんなこと、どうでもいいじゃん」

 アルコールがまわり始め、ほんのりと頬を赤く染めた彼は、酔いに任せてその答えを曖昧にする。

「えぇ~」

 ふたりは、お互いの目を見て笑い合う。それぞれ考えていることは多分全く違うのに、同じ目をして、この時間を楽しんでいた。