「深空ちゃん、なんか太ったんじゃない?」

 休憩時間。久しぶりに彼女に会った夏美は、ニヤニヤしながら彼女の脇腹を突いた。

「えっ、まじで?」

 嫌な指摘を受け、深空は思わず両手で顔を覆う。

「うん。なんか、幸せでいっぱい、みたいな感じ」

 夏美がそう言うと、深空は照れ笑いを浮かべた。

「いろいろあったみたいだし…。片がついてよかったね」

「ん」

 またあの制服に袖を通した彼女は、久しぶりの仕事にブランクを感じさせないあの笑顔を、無差別に振り撒く。しかし、今度は違う。

 とっておきの笑顔は、心の中にしまっておこう…。

 深空は、そんなふうに考えていた。

 深空の考えは、少しずつ変わっていた。この平和がいつまで続くのか、と思うよりも、この平和をいかにして継続させていくか。

 これは天運に任せるのではなく、自分自身で切り開いていかねばならないんだ、と強く思い始めていたのだ。

 幸せは授かるものではない。自分で掴むもの。

 これは、彼女の座右の銘となった。