「お腹の赤ちゃんには、悪いことをしたな…」

 不意に、雄二は隣にいる深空のお腹に軽く触れ、ぽつりとつぶやいた。
一瞬だけ、血だらけになって流れてしまった大晦日の夜が深空の頭に過ぎった。しかし、すぐにそれを掻き消し、口を開いた。

「…誰も悪くないよ」

 彼女は、繋いだ手の上にさらに自分の手を重ねた。

「でもさ… 記憶を無くしたとはいえ、俺は見捨てようとした… お前に産む決心をさせておいてさ…」

 雄二は悔しそうに目を伏せる。そんな目には、キラリと光り揺れる涙が見えた。寂しそうな雄二を見た深空は、首を横に振り、重ねた手に力を込める。

「また、きっと戻って来てくれるから… それよりも今は…」

 深空はそのまま彼の腕を抱きしめ、頭を預けるように寄り掛かる。

「こうしていたいの…」

 一緒に眠いたい……
 この温かい胸の中で、安心に包まれて眠りたいんだ…

 深空はそっと目を閉じ、雄二の胸の鼓動に耳を傾けていた。

 背後から差し込む日の光りを受けて、二人を包んでいるその空間は、柔らかく穏やかだった。