胸の高鳴りで苦しくなり、リングを見つめる目は、ゆらゆらと霞んでいく。

「嘘… なんで…」

 その時、ふと、雄二が深空の家に来た昨日のことを思い出す。

『解らないけど、体が勝手にここに辿り着いた、というか…』

 彼が深空の家にたどり着くことができた理由を、こう説明していた。

(ひょっとして、記憶をなくす前のことを、無意識のうちに思い出しはじめていたんじゃ…)

 リングを見つめながら深空は考えていた。

(確かめなきゃ…!)

 立ち上がり、次の停車駅がまだかと焦る。しかし、逸る気持ちと裏腹に、また次の駅が見えない電車は、スピードが落ちる気配すらない。深空は流れていく景色を、しっかりと見つめていた。