(あ、新刊出てる)

 レジの前に平積みにされている漫画の新刊を手に取り、そのまま雑誌売場をウロウロしてみる。しかし特に気になるモノはなく、店内を見て回っていた。

 深空がいつも通っているこの本屋は、鰻の寝床のようなところである。

(人、多いな…)

 彼女は肩掛けのかばんが立ち読みしている人に当たらないよう注意しながら、通路を歩いていた。こんな夕方だというのに、文庫売場に着くと、沢山の若い人が本棚と睨めっこしていたのだ。人の居ないところで、深空も新刊の文庫を手に取ってみる。

(活字の本を買うのも久しぶりだな…)

 彼女は専ら、雑誌や漫画専門だった。活字が嫌いというわけではないが、彼女には時間がなかった。恐らく、ここ最近の日常が、ゆっくり本を読める環境ではないからだろう。暇があればバイトしたり誰かと会ったりして、優雅に本を読む時間に充てるなど皆無だった。

 先ほど手に取った漫画をと小説の文庫本を手に何気なくレジに並び、順番を待つ。深空は、前の人のレジが終わるのをただボケっとしながら突っ立っていた。すると急に、前でお金を払っていた男が振り返りざまにドンっと彼女にぶつかってきたのだ。