西日が部屋に差し込み、気温が下がりはじめた夕方―

 雄二は、引越し業者が置いていった段ボールに、部屋の荷物を詰めていた。

 三日後に迫った引越し。仕事柄、本が多いこの部屋は、自分の部屋であってそうではない。何が必要で不必要なのか全く判断がつかなかった。仕方なく彼は端から順番に荷物を箱に詰めていく。

 箱は、すぐいっぱいになった。また新しい箱を組み立てて、同じ作業を繰り返していた。

 本棚のものを詰め終えると、次に、本棚の隣にある背の低い飾り棚に手を付けた。車の模型がたくさん並べてあるそれらのおもちゃも、どんどん手に取り箱に投げ込む。

 最後の車を手にしたとき、その後ろに隠れるように、いやわざと目立たないように置いてある小箱を見つけたのだ。

 紺色のベロア調の手の平サイズの小箱。

 そっと手を伸ばし、その小箱を手に取り、蓋を開ける。すると、ピカピカに光り輝くプラチナのリングがちょこんと収まっていた。

 リングの内側を覗くと、"From Y To M"と掘られている。

(これは…)

 しばらくの間、雄二はそのリングをじっと見つめていた。

(……!)

 眉にシワを寄せ、頭痛に耐える。その痛みの先に見えるものを怖がらずに見ようと、彼は必死に目を閉じていた。