「…で、そのまま別れて来ちゃったの?」

 目を丸くして逸子が、言った。

「……」

 俯いた深空は、逸子に目も合わせず黙っていた。

「この、バカ娘!!」

 そんな深空に逸子は顔を赤くして指を差す。

「この間、あたしが言ったでしょう! 女が強がったら、男は逃げるんだって…! どうして、止めなかったのよ!」

「だって、仕方なかったのよ!! あたしといても何の変化がないの… あの人の中に、あたしはいなかったの…!!」

「記憶がなくなっちゃったんだから、当たり前でしょ?! それでもあなたと彼を繋ぐものがなくなったわけじゃないわ。あなたの想いが、繋いでたんじゃない!!」

 興奮した逸子が、テーブルにバンと手をついて立ちあがった。

 その目は強く、深空を捕らえていた。

「赤ちゃんがいなくなっちゃったことを理由にしちゃ、ダメよ…」

 宥めるように逸子は言う。

「解ってるよ…!!」

 しかし、感情のコントロールを完全に失った深空には、もうどうすることもできずに叫んでいた。そして、涙目で自分の部屋に戻っていった。