(まだ… 帰ってないのか)

 深空はドアの前に座り込み、携帯を開いた。そして、慣れた手つきでネットに繋ぎ、画面を覗き込む。

(あ、続報…)

 あの事件で、犯人の高校生から出た新たな供述の記事が出ていた。

『学校の試験を受けたくなくて、電車を止めようと思った』

 このニュースを読む度に、腹わたが煮え繰り返りそうな程の怒りが、込み上げて来る。その怒りのせいで興奮した深空の目には、涙が溜まっていく。

 この子の身勝手な行動のおかげで、私たちがどれだけ苦しんでると…

 こぼれ落ちる涙を指で拭いながら、携帯のネットを切断した。

 するとその時、複数の金属の階段を踏み鳴らす音が彼女の耳を掠めた。深空は急いで涙を拭いて立ち上がる。

「あら、やだ。深空さん、体、冷えちゃうじゃない」

 アパートの影から顔を出したのは、慌てた顔をした節子だった。そのあとすぐに、買物袋を提げた雄二も続く。

「すぐ開けるわね」

 かばんから鍵を出し、節子がドアのを開けた。

 俯いている深空に気付き、雄二は彼女の顔を覗き込んだ。

「…泣いてたの?」

 深空は首を激しく振り、それを否定する。しかし、雄二が物憂気な表情を残し、部屋に入るのを見て、深空は肩を落とした。

(情けない…)

 最後に彼女も、部屋に入る。そして、ドアを閉めた。