クリスマスイヴの惨劇から一週間。

 街を歩いていると、商店街は正月飾りに衣更えし、新しい年を迎える準備が整っていた。

(…今日は大晦日か。早いな)

 深空は雄二のアパートの前に立ち、階段をゆっくりと昇っているところだった。

 記憶をなくした彼が、このアパートに戻ってから、深空のつわりは酷くなる一方だった。食事もほとんど取れず、このアパートで節子が作ってくれる食事も、家に帰るとすぐに戻してしまう。そんな日々が続いていた。しかし、弱音を吐いているわけにもいかない…

 彼女はだるい身体にムチを打ち、自分を奮い立たせていた。

(ちょっと早すぎたかな)

 腕時計で時間を見ながら、一番奥の部屋を目指す、深空。

 昨日の夜、節子から電話があったのだ。

『明日の午前中だけど、雄二と二人、親子水入らずで出かけたいから、来るなら午後にお願いしたいんだけど…』

 時計の針は12時半を回ったところだ。

 深空は、彼の部屋のドアを叩いた。やはり彼女の予想通り、中からの反応はなく、ドアが開くこともなかった。