「先生、りんごむいたよ。一緒に食べよ」

 雄二のベッドサイドで深空は笑いながら、楊枝の刺さったりんごを差し出した。

「え、あ、うん… ありがとう」

 戸惑いながらも、彼は手を伸ばし、りんごの楊枝をつまんで口に運んだ。

 深空は決意していた。

(涙は、見せないんだから…)

 泣いても仕方が無い。悲しい顔を見せるよりは、できるだけ笑う…

 今できることをしっかりする―

 それが、彼女の誓いでもあった。

「深空…ちゃん」

 不意に、雄二が拙い呼び名で彼女を呼んだ。

「え?」

 りんごを口に含みシャリシャリと音をさせながら、深空は雄二の顔を見る。すると、彼とがっちり目が合った。深空は、何を言われるのだろうかと、ドキッとする。

「覚えてなくて、ごめんね…」

 彼は申し訳なさそうに、深空に深々と頭を下げる。しかし深空は、首を横に振るだけで何も言えなかった。

「君のことを聞かせてくれないかな…?」

 雄二は、深空の手の上に自分の手を重ねる。

「あ…」

 思わず、手を引っ込めそうになりながらも、じんわりと伝わる彼の体温に、彼女はゆっくりとうなずいた。