「彼のご実家には連絡しました。すぐにでも出て来られるそうですよ」

 医師が尋ねると、深空の瞳孔が一瞬だけ開く。しかしすぐに「そうですか」とうなずいた。

「あ、これは大村さんの手荷物です」

 医師の隣に座っていた看護師が、カゴに入った雄二の服やかばんを深空に渡した。

「あの、彼は…」

「あと2、3日入院して、様子を見ましょう。心療内科の先生に連絡しておきますから、詳しくはそちらで」

 医師はそう告げると、立ち上がった。そして、忙しそうにこの部屋から出ていった。

「…大村さんの胸ポケットから、こんなものが」

 看護師は、手に持ったファルから一枚のペラペラの紙を取り出した。

 深空は、差し出されたその紙を受け取る。そして、丁寧に折られたその紙を広げると、見覚えのある筆跡…

「あ…」

「大事に持っていたんですね。失礼だとは思ったんですが、これをすぐに見つけたんで、これを見て最初に大村さんの家に電話したんです」

 深空の手には、ふたりで書いた婚姻届が握られていた。すると、また深空の目には涙が溜まっていく…

「体調、大丈夫ですか。…さっきの、つわりでしょ」

 看護婦の言葉に、深空は小さくうなずいた。

「赤ちゃんのためにも、まずあなたがしっかりしなくちゃ。ね?」

 そう言って、その看護師は深空の目を真っすぐに見つめた。深空は手の甲で涙を拭い、深くうなずいて見せた。決心するように…