「びっくりしたでしょう…」

 白いテーブルを挟み、首から聴診器をぶら下げた医師が、静かにそう口にした。

「昨日の夜中、彼が目覚めたときに暴れだしたんですよ。自分が誰なのか解らないってね…」

 説明室には、深空の向かいに医師、先程雄二の病室まで案内してもらったあの看護師が席に着いていた。

「身体の怪我も、かすり傷程度でした。頭も、一応MRIで確認したら、異常はありませんでした。しかし、よほどのショックだったんでしょうね、記憶喪失とは…」

 "記憶喪失"という言葉だけが、深空の頭の中に強く残り、ぐるぐると回る。

「あの…」

 深空は顔を上げた。

「一生、このままなのでしょうか…」

 彼女の質問に、医師は難しい顔を浮かべていた。

「一時的なものだとは思いますが、きっかけが無いとなかなか難しいでしょう
。ただ、無理に思い出させようとすると、かえって逆効果だったりしますしね」

「…そうですか」

 深空は、肩を落した。