「君、誰…?」

 申し訳なさそうに、眉をひそめて彼は言った。

(え…)

 深空の手から、かばんが滑り落ちていく。

 初めて彼女に会うかのような反応の雄二に、深空は完全に凍りついていた。

(あたしを… 忘れた…?)

 深空は、急に吐き気に見舞われた。

「うっ…」

 そのむせ返るような胃液の臭いに耐え切れなくなった深空は、口元を手で押さえてベッドを離れた。そして廊下に出てトイレに駆け込むと、胃には何も入っていないにも関わらず、止まらない吐き気が彼女に襲い掛かる。その吐き気と一緒に、深空の頬にはとめどなく涙が流れ落ちていた。