微かに残る、血と消毒液の臭い…

 それは、昨日の戦場のような救急処置が行われていたことを容易に想像することができる。

 今では、すっかり落ち着きを取り戻した病院の廊下を、前を歩く看護師に続き、深空は歩いていた。そして案内された病室に入ると、そこは薄いピンク色のカーテンで4つに仕切られた部屋だった。

 そのうちのひとつ、奥の窓際の方のカーテンを引き、看護師は深空に手招きした。

 深空の足は、異常なほど震え、手にはしっとりと汗をかいていた。ごくっとつばを飲み込み、彼女はゆっくりとカーテンの中に入る。すると次第に彼女の視界は、ゆらゆらと霞んでいく…

「先生……」

 そこには、雄二が穏やかな顔で眠っていたのだ。

 深空は床にひざを付き、横たわる彼の体に顔を埋めて、泣き出した。溢れ出す感情を抑えられず、彼女は彼の手を握り、彼の体温の温かさを実感していた。

「大村さんの状態なんですが」

 ファイルを持った看護師が、深空の背中に向かって話を始めた。深空は頭を上げ、その看護師の方に振り返った。

「爆発の衝撃を受けて、頭を打って意識不明で運ばれて来たんですけど、MRIで調べたら、特に異常が見られませんでした。ただ…」

 看護師は、何やら、とても言いにくそうに目を伏せた。