会計を済ませた深空は、待合室をキョロキョロと見回し雄二の姿を探していると、彼は入口の辺りで、背を向けて立っていた。

「お待た…せ」

 右手を上げて、彼のその背中をぽんと叩こうとすると、彼が誰かと電話で話をしていることに気付く。

 深空は彼の顔を覗き込んだ。すると、彼の顔が溶けそうなほど、目尻が下がっている。

「12月の終わりに、また会いに行くからな。…うん、うん。俺も好きだよ…」

 雄二の口から飛び出した言葉に、深空は目を丸くして雄二の顔をさらに覗き込む。そこでようやく、彼は深空の存在に気が付いたのだ。

「お、じゃあ、またな」

 雄二は携帯の通話を切り、ポケットにしまった。

「誰?」

 白い目で、深空は言った。

「今の?」

 雄二が聞き返すと、深空は黙ってうなずいた。心なしか、深空の目つきが険しいのに気付く。雄二は、にやっと笑った。

「気になる?」

 意地悪に微笑む雄二を見て、深空はふて腐れた。

「あたしが聞いてるのにー!」

 彼女がそう返すと、雄二の笑顔がいつもと同じ、優しくなった。

「俺の… まぁ、そのうち解るよ」

 深空のかばんを持ち、雄二は病院の自動ドアをくぐって行く。深空は、プクっと頬を膨らませながら、その後に続いていった。