「え?」

「え、じゃない。近いうちに、家を出るから」

「は?」

 口をあんぐり開けて、状況を飲み込めない逸子は深空と雄二の顔を交互に見た。

「お嬢さんのお腹には、僕の子がいます。二人で育てたいと思っています」

 膝を付き頭を下げながら、雄二がそう言うと、逸子は力が抜けたようにソファに腰を沈めた。

「20年くらい前に、同じようなセリフを聞いたわ…」

 テレビの向こう側にある窓を見つめ、逸子はぼそっと口にした。

「懐かしい響きね。若いわ」

 逸子は、ちらりと深空を見てから、続けた。

「…無理して産むことないのよ。堕ろすっていうのも、ひとつの選択なんだから…」

「それって、お母さんは、あたしを産んで後悔してるってこと?」

 腕を組み、強い口調で問いただすように深空は言った。

「…どうかしら。少なくとも、お父さんはすぐに外に女作ったしね。責任を押し付けれた気さえもしたわ。あたしも、あんたを産んだの、今のあんたくらいだったし…。」

 逸子はウェーブのかかった髪の毛を指でいじりながら言った。すると、深空は顔を赤くしてさらに逸子を睨みつける。雄二はそれを制止した。