長い夏が終わり、太陽の光もだいぶ和らいできた頃―

 まだ帰りのラッシュよりも少し早い時間。電車の窓からは西日が射し、それに向かい合うように座っていた彼女は、とても眩しそうに目を閉じながら揺れる電車に身を任せていた。やがてオレンジ色の光に包まれたホームに降り立ち、沢崎深空は、まばらな人影に紛れ、エスカレータに足を置いた。

 特に何の予定もない、夕方。

 最近まで付き合っていた彼氏とも会わなくなってから数日。こんな予定のない日は、誰かしらと遊んでいた彼女であったが、全くの白紙である夕方は、珍しかった。

(本屋にでも、寄るかな…)

 かばんのポケットから定期入れを出して、人の流れに乗りながら、改札機にタッチする。そのまま深空の足は、は駅ビルに入っている本屋に向かっていた。