「俺がちゃんとした教師だったら、
きっと滝野に実家に帰れと言ったんだろうな。
だけどほら、あいつ、高校時代の俺より、
しっかりしてるじゃん?」

《守さあ……疑問系で聞かれても、
僕はその滝野って子と
話したことないんだけど。》

「だってあのくらいの歳だったら、
普通、自分の欲求のままに生きるだろ?
少なくとも俺はそうだった。」

《ああ…たしかに。》

「ここに残れば?なんて言うのは
教師失格なのかもしれないけど、
でも、やっぱり、皆が納得できるのが、
一番幸せなんじゃないかって思っちゃうわけ。
あいつは別に
親と喧嘩して家出してるんじゃないし。」

《守は僕と喧嘩して、
友達の家を泊まり歩いてたりしてたもんね。》

「あれ?兄貴、なんか怒ってる?」

《別に今さら怒ったりしません。》


気がついたら夏も終わりに近づき、
明後日から学校が始まろうとしていた。
あの花火の夜を境に滝野は笑顔を取り戻した。

「兄貴はやっぱり俺に優しいなあ…
そろそろ彼女できないの?
いないにしても気になる子とかいないの?
もう8月も終わっちゃうよ?夏も終わるよ?」

《あのねえ。僕、今、結構忙しいの。
この夏は、
よく脱走する担当患者を探すのに
必死だったんだから。》

「へえ?楽しそうじゃん。」

トントン…
ん?玄関のドアが鳴ってる。

「なんか、人来たみたい。
じゃあ、明日の夜な。」