祐介は走った。とりあえず1人になりたい。と思い、公園の池に行った。
すると突然誰かの歌声が耳に飛び込んだ。
「あの日 突然舞いこんだの 私の全てを奪ってゆくわ きっとこの先も埋まらないーー、 欠けた 思いがつのるーー。」
祐介は圧倒した。
「!!」
(……なにこれ、めちゃくちゃきれい)
するとその人は気配を感じたのか、目線を池から祐介に変えた。
綺麗な黒髪をなびかせて振り返ったときーー
「…!」
目と目が合った瞬間、祐介は時間が止まったような気がした。
(きれい…だ…)
制服を身につけていて、長い黒髪でふたつくくりをしている。顔立ちもよくて、細身の白い肌に透き通るような綺麗な瞳を持った少女だった。
祐介は息をするのを忘れるほどに彼女に魅了された。
「…。」
しばらくして彼女から目を逸らしたとき、祐介も我に返った。
時間が一気に動き出したような気がした。
(な、なんだこれ…)
そのときの祐介の鼓動は速くて、大きかった。
時刻は午後八時。池から少し離れた遊具で遊ぶ子供の声が響く。
しばらく沈黙が続くと、彼女は祐介の隣を通り過ぎようとした。
「…待って!!」
「…?」
祐介は衝動で彼女を呼び止めた。自分でもよくわからなかったが、この子と一緒に居たいと思ったのだろう。
彼女は立ち止まって首を傾げた。
祐介は精一杯拍手をして、とにかく彼女に自分の感動を伝えようとした。
「歌……す、すごかった!!!すげえ綺麗な声!!やべえ!!」
「…」
すると彼女はiPhoneか何かを取り出して素早く
【ありがとう】
と打って祐介に見せた。その顔は少し嬉しそうだった。
祐介はその顔にどきっとした。が、
(えっなんで口で言わない?)
祐介がポカンと口を開けているにもかかわらず、彼女はその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと!…もう行っちゃうの?」
「…」
するとまたiPhoneを取り出して
【ここ使いたいんじゃないの?】
とさっき彼女のいた場所を指差した。
(どこうとしてくれてるのか…)
祐介は確かに1人になろうとここに来たがそんなことはどうでもよくなって、彼女のことを知りたい気持ちでいっぱいだった。
「そうだけど、でも目的変わったから」
祐介は眩しく笑った。彼女はまた首を傾げた。
「もっとあんたの歌聴かしてよ」
祐介は彼女の手を掴んである場所に連れて行った。