夏休みを迎えた祐介は、カラオケでクラスの体育祭の打ち上げをしていた。

2-2のクラスは30人近く居る。だが今カラオケに居るのは20人もないぐらいだ。きっと嫌われている人や、影の薄い人は誘われなかったんだろう。だが鈍感で人をあまり嫌わない祐介はそれに気づかなかった。

「なぁ、今日人数少なくね?」

「だって嫌いな人誘ってないもーん」

「えークラスの打ち上げなんだから今日くらい誘えばよかったんじゃねーのぉ?」

すると彩香は微笑み寄り添った。

「…ゆーすけはほんとに優しいね。事故のこともみんなに気を使わせないように明るく振舞ったりさ、」

「…あ?おいボソボソ喋ってて何言ってんのかわかんねーよ!」

「もー!祐介のばーか!せっかく褒めたげたのになあ」

「え?褒めてたの?もっぺん言って!お願いします!」

「はーいそこ、イチャつくならあそこでしてね」

前方から彩香の親友、村田美優の声がした。

「おいあそこって…ちょ、おま何言ってんの?!」

それからクラスの人たちに「らぶらぶ!」「付き合っちゃえよ」などのコールを受けている中、彩香は少しだけ嬉しそうだった。


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「次誰歌うー?」

「ここは俺が出る幕だ!!」

淳平が前に出たが、盛大にスルーされた。

「バンドやってるんだし、木谷歌ったら?」

美優が提案した。

そう、祐介はバンド部に所属していて、ボーカルとギターをしている。他にもサッカー部など入っていて、そこでもよく活躍しているのだ。

「っしゃ、一曲歌うか!」

木谷がマイクを握った。
そして曲が終わる頃にはみんな感動していた。

「あいついっつもアホしてるくせになんだよあのギャップ!」

「きゃーやばい!!惚れちゃうんだけど!!」

妬む男子たちと、歓声を上げる女子たちが騒いだ。

「ははは、みんな俺に惚れてんじゃねーぞ?☆」

「あーあ、あんたはすぐそーやって調子に乗るからモテないのよ!」

浮かれる祐介に彩香がツっこんだ。

「てゆーかおい!!女子いつの間にこんなに曲入れてんだよ!!」

「いーじゃんあんたら音痴なんだしあたしらの歌声聴けることに感謝しなさいよ?」

「っは?!俺の美声スーザンボイル級だから!なめんな」

淳平と彩香を中心に男女がマイクの奪い合いだ。

「もーいいわ、俺も曲入れまくろうぜ!」

なんとか落ち着いて次の曲が流れたとき、

「…これ」

祐介は突然立ち上がった。聞いたことある曲だったからだ。

「おいゆーすけどうした?」

クラスのみんながざわついた。

「あれ?なんで俺立ってんだろ、ごめんなんかみすったわww」

「どうみすったんだよww」

祐介は笑って誤魔化した。
そう、その聞き覚えのある曲とは事故で亡くなった妹、七海のよく歌っていた曲だったのだ。

(七海は歌下っ手くそだったなあ。)

さっきまで盛り上がっていた祐介は、家族のことをまた考えて、しんみりしていた。

(俺と七海はあのとき、母さんと父さんが死んだのを目の前にしたし、一緒の思いをしたはずだったんだ。でも七海も死ぬなんてほんとなんなんだよ…)

そのとき、祐介の目から涙が零れた。

「あ…」

我に返ったとき、カラオケボックスは静まり返っていた。

そしてクラスの女子がおそるおそる口を開いた。

「木谷、あんた…泣いてる?」

「…え?泣いてないけど?wwてかなんでこんなに静まり返ってんだよ!!わけんかんねぇww」

祐介は泣いているのか笑っているのかわからない顔で必死に答えた。

どう見ても泣いているとバレバレなのに、それでもまだ嘘をつく。

「祐介…」

彩香は祐介の幼馴染であるわけで、七海のこともよく知っていた。だから曲が流れ始めたとき、なんとなく嫌な予感はしていたらしい。

祐介はこれ以上自分の感情を我慢できないと思い、「ごめん、先帰るわ」と言ってカラオケボックスを飛び出した。

クラスの何人かは祐介を追い止めようとしたが、彩香に「やめときなよ」と止められた。