------------------

7月の中旬。

事故のことをずっと気にかけていた青年、木谷 祐介(きたに ゆうすけ)は、もうすぐ高校二年の夏休みを迎えようとしていた。

そして、この夏で事故のことをなるべく忘れたいと思った。

(このままじゃだめだ。事故のこと思い出さないように遊んで忘れねーと。いや、忘れるわけにはいかないけど。)

祐介は自分の席で長い髪の毛先をいじりながら考え込んでいた。

そう、祐介は男子なのだが髪が肩ぐらいまであって、茶髪と金髪の混ざった色をしている。いわゆる「ロン毛」だ。前髪はセンター分けでそれがなぜか似合っている。よく女の子に間違えられるが、祐介は顔立ちもよくて、モテる。

「ゆーすけちゃーんっ!今日も髪の毛にキューティクルが浸透しててサラサラですなあ」

ざわつく2年2組の教室に響く声。祐介の席に現れた背の低い男、彼は吉弥 淳平(よしや じゅんぺい)だ。祐介といつもふざけ合ってるお調子者。

「まあな!それに対しておまえは枝毛だらけだけどなーーっ」

家族のことを考えている時に突然淳平が来て、祐介は焦った。が、頑張って合わせノリに乗った。

「うっせえわ!てかさ、夏休み始まったら行こうぜ!!海!!」

「ちょっとじゅんぺーやめなよ、遊んでる場合じゃないでしょ?まだゆーすけは事故のこと…!」

ぬっと横入りして淳平の頭を叩くのは祐介の幼なじみの南原彩香だ。積極的でおしゃれに気を使っている。彩香はずっと祐介が好きで、本人以外誰もがそのことを知っている。

「あっ…ほんとだ悪ぃ、ゆーすけ」

「事故?まだそんなこと言ってんのかよ、俺よりお前らのが心配してどーすんの!行こーぜ海!」

祐介は笑い飛ばして誤魔化した。だが彩香だけは無理しているとすぐにわかっていた。クラスの人たちもなんなく、それに気づいていた。

「落ち着いたら来なよゆーすけ」

「来たらあたしらの水着姿見れるのにねぇ笑」

「うっお!!やっべぇ絶対行」

するとすかさず南原が祐介を睨んだ。祐介は大きく首を振ったが、そのあと殴られ、クラスに笑いが起こった。これがいつもの2年2組。祐介はいつものような雰囲気になれたので少し安心した。

祐介は思惑通り戻って行く日々を喜ばしく思った。

だが自分の心の中からあの事故のショックは少しも消えていない。

しかし周りに気づかれなければ、なんの迷惑もかけずに済む。そう祐介は考えた。

(生活が元に戻れば、それでいいや)