それならこの臭いを嗅がないようにする方法とか、何か手があるんじゃないか……そう言いたいところだけれど、言うのはやめた。
それを言えばただの我が儘だとわかっていたから。
だって、アルフレッドも私と条件は同じだ。
それにこれがアルフレッドだからいいようなものを、カイトならまず間違いなくキレてるはずだし。
きっと目尻を釣り上げながら剣を向けられているところだろう。
けれどアルフレッドがあまりにも優しいので、私も思わず口をつぐんだ。
勝負の時とは全然違う、彼の見た目通りの紳士っぷりにどうやら私の我が儘も隠れてしまうようだ。
それに今の私には、杖が無い。
魔法が使えない状況で頼りは彼だけ。
道案内までしてもらい、無償で協力してくれる彼にこれ以上何か言うのは気が咎めていた。
私は鼻で呼吸しない様心がけ、頭の中で迷宮の森で見た景色を想像した。
あそこでの出来事にいい想い出は少ないけれど、色とりどりの葉を付けた木々は可愛く美しかった。
「実亜、隠れて」
突然腕を引っ張られ、私はアルフレッドの腕の中にすっぽりと納まった。
……と、同時に口を抑えられ、思わず出そうになった言葉は、塞がれた口の中で行き場を失った。