アルフレッドは誰かと違って溜め息ついたり舌打ちなんてしない。
今だって呆れられるか怒られるシーンだけど、そんな態度はとりさえしない。
……私は誰と比べているのか。
足元のぐにぐにとした感覚にゾッとしながらアルフレッドの後を歩く。
「もう少しです。もう少しで宮殿の地下に入ります」
「ねぇ、こんな地道なことしないで魔法でどうにかできないの?」
「そう出来ればしたいところですが、宮殿のそばで魔法を使えばカモタケツにバレてしまう可能性が高まります。そのリスクを避ける為、そして万一見つかった時の為に力を温存するのです」
そう言った矢先、アルフレッドは何かを踏みつけたようで、一瞬足を取られる。
多分泥濘みにハマったのだと思う。
次に足を持ち上げた時、レザーの靴がドロドロになっていた。
「じゃあせめてこの臭いだけでもどうにかならないかなぁ?」
鼻を抑えて言ったせいで、声がくぐもる。
そんな私に向かって眉をハの字に曲げ、微笑んだ。
「臭いに馴染んでいる方が安全なのですよ。私達の体臭やにじみ出る気などを隠し、敵の鼻を欺けますから」