手の中の空き缶を潰さないよう握る。

瑛には、伊奈の行動がよくわからない。
ただ、今だけは敵ではないらしい。

呼び止めるのも違う気がして、そのまま背を見送る。

不本意ながら、彼のおかげで証拠は手に入った。

オーランドの方でも手に入れば、完璧だ。
多分ここにはこれ以上、何も無いだろう。
教頭の髪の毛でも残っていれば更なる証拠になるが、あの頭にそんな余裕は無さそうだ。

この空き缶がどこまで証拠になるのだろうか。
偽装したと、言われるかもしれない。
万里は、『飲酒の証拠を』としか言わなかった。

(なんとか、してくれるか。)

あの大人は、信頼出来る気がした。
なぜだかわからないが、話すときの雰囲気や、真面目そうな眼差しのせいだろうか。

先ほど、遠くでサイレンの音が聞こえた。
きちんと聞いていなかったのでうろ覚えだが、警察か、救急車か。
もし警察なら急がなければ。

瑛はまりあや万里の待つ、きのこ部の模擬店へと走った。