見なかった事にしようか。
しかし、それも後味が悪い。


「あ!」


瑛の視線を追ったまりあは、パイプ椅子の上のベビーカステラを見つけ、迷うことなく手に取った。


「忘れてっちゃいましたね。」

「ああ。」

「お父さんが見つかって、本当に良かった‥‥。瑛さん、探してくれてありがとうございました。」


まりあも心配だったのだろう。
瑛の横で、とても嬉しそうに微笑んでいる。


「届けるか?」

「え?」

「それ。」


まだ近くにいるだろうと、まりあの手のベビーカステラの袋を見て、瑛がぶっきらぼうに言うと、まりあは一瞬驚きに目を丸くしたが、すぐに満開の笑顔で「はい。」と返事をした。

その笑顔に、瑛の口の端も少し上がった。