少しだけマスターや店員さんと仲良くなって、お代は愛がお支払いしてくれて帰ることにした。
マスターがお釣りを渡す時、愛の手をガッチリ握って、愛がドン引きしていたのも良い思い出の一つだと思う。
……そう思いたい。
そんなことがあった帰り道。
不意に愛がマスターについてポツリと呟いた。
「あの人……俺の感情を読み取れたんだね。やっぱ、バーのマスターってあんな人ばかりなのかな?」
マスターの積極性にドン引きしつつも、愛自身にも何か思うところはあったらしい。
初対面のマスターに、自分の感情を分かってもらえたことで、うっすら嬉しそうだ。
そんな愛の姿を見て、あたしも嬉しくなる。
そして、やっぱり愛はあたし以外の理解者を、本当は心の底で求めているんだろうと確信した。
「……そうだね」
ちょっと、寂しいような。
寂しくないような。
新たな出会いと、そんな気持ちを知った春の日だった。
……それから、お父さんとお母さんもあたしの合格祝いをしてくれ、あたしはその後、無事大学へ入学した。



