夕方、家に帰るとアパートの前の道を、ちょうど引越し屋のトラックとすれ違った。

もう運び出したんだ…。

じゃあ、もう101号室はモヌケの殻か…。

やだな…。

また急に足が止まっちゃった。

少し離れた曲がり角から、アパートを一人で見つめていると。

黒塗りの軽自動車が止まっていて、輝が車に乗り込んだ。

輝…。

結局私は彼女なのに、引越しを手伝うパートナーに、妹を選んだ、輝。

ごめん…。

強がるばっかで何一つ、言葉を掛けられない。

私は車が走り去るまで、そこで立ち尽くしていた。

『バイバイ…輝…』

自然消滅で、あなたとの縁は無かった事で…。

なのに、そう思って。

思って、思って…思い込もうとする度に…。

寂しくて悲しくて…心臓が痛くなって…身体中が拒否反応を起こして震え出す。

涙が止まらない…。

寂しいなら素直に寂しいって言え…。

輝の言葉が私を追い詰めていく…。

アパートには、誰もいないのに…。

101号室のインターホンを鳴らして。

ピンポーン…

インターホンの音が、部屋中に響くのを聞き届けて。

輝…?

3回押す前に、怒って出て来てよぉ…。

ドアにへばりついて、涙を流した。

今夜は食が通らない。

通らないどころか、ずっと布団の上で横になりっぱなし。

自分の本心は、寂しいから側に居て欲しいだけなんだけどなぁ。

人事異動だから、側に居てもらうには、自分が輝の側に居なくてはいけない。

要するに私が静岡に行くって事。

男に自分を合わせるって事に、先ず持って抵抗があるんだけどさぁ。

同棲生活…。

それはそれで、束縛だとか押し付けられたりで、自分の時間は間違いなく奪われる。

それも嫌なんだよねぇ。

輝は優しいけど、アレどう見たって亭主関白ってやつ。

威張って仕切って来る奴には、私は絶対逆らって歯向かっちゃうし。

遊びたい時に、気軽に勝手に遊びに行ける。

それも、私の幸せだったりもするんだけどなぁ。

横になってるから、下の気配をすぐに感じちゃう。

しーずーかーすーぎーるー!!

…寂しい。

今頃、実家で家族とワイワイ最後の晩餐をしてるかと思うと…虚しい私。

『どうやら私の言った通りの結末みたい』

モモちゃんにメールした。

しばらくして、

『別れるって事?それでいいの?』

そんなメールの返信に思わず声が出る。

「いい訳ないしぃ…」

また涙が溢れた。